アンスの夢の跡1


アクラに強烈なしっぺ返しをくらったshokolaだったが、今はスンヤニ・チラのスクールバスをどうにかしなくてはならない。しかも合間に活動詰め込んで完全にキャパオーバー、心とカラダが分裂しそう。嵐のようなMusic Awards騒動で終わった三月、迎えたイースター祝日にチラでアンスのウェルカム・セレモニーをやるという。日本人ボランティアも全員出席してバスと寄贈品の贈呈式を盛大にやろうと、チーフ関係者や村人をとりまとめて大張りきりのクミさん。

ちょっと待って、バスはまだ税関で足止めくらってテマの港だよね?アンス、一体どうするつもり?

「関係省庁にレターを書いてもらって、免税措置を嘆願するよ。」
そういってバスを取り戻しにアクラに発ったアンス。連休を利用してスンヤニに遊びに来たむさぴょんとキンタンポの滝やコートジボワール国境付近の村まで行ったりしながら、頭の中ではバスとアンスが右往左往。アンスは音信不通、迎えたセレモニー当日、いざ集合時間になっても来るはずの迎えが来ない。電話口でクミさんが答えた。
「アンスがバスを持ってこれなかった。セレモニーは二週間後に仕切り直しだ。」

えー!だってアンスの滞在期間は一カ月だよ。だいたいホントにバス持ってこれるの?バスなしでとりあえずセレモニーだけやるとかさ?いても立ってもいられず体調不良のむさぴょんを放置して(ごめんむさぴょん!)スンヤニの妹夫婦のもとに身を寄せるアンスを訪ねた。

「SHOKOLA!!よく来たねー!どうぞお上がり」チュイ語を喋るオブロニは関係者全員への挨拶回りが基本、家の説明を受けながら色んな部屋に通される。「みて、ドイツ製の洗濯機と冷蔵庫だよ。こっちはドイツで買ったビデオカメラとオーディオ。ドイツビールとワインもあるよ、飲む?」ガーナ人の洗濯は手洗い、敬虔なクリスチャンほどアルコールを飲まない人が多い。アンスの部屋はダブルベッドが配された一階中央を陣取り、庭にほった井戸から取れる水で飲料水販売事業を始めたという。(ガーナではビニール袋に入った安価な飲料水が一般的)
なんだ、この家…。ドイツ家電にあふれ、アンスがドイツで稼いできたであろう外貨がつぎ込まれた、オブロニ文化まみれの空間に平衡感覚を失う。無邪気なアンスが天使のようにきらきら舞う。

「レターは取れなかったから免税措置はできなかった。特殊なバスだから課税の査定に時間がかかって。それでも事情を話して低く見積もってもらった。バスの中に詰め込まれた物資も合わせたら14000€くらい」

…今レートいくら?150万円はゆうに超える。誰が払うの、それ?

「何度もスンヤニ・アクラ間を往復して、莫大な税金も払わなきゃいけないし、お金がもの凄いかかるんだよ。ガーナの習慣、知ってるでしょ?セレモニー開いて食事代や開催費を負担する余裕はない。ぼくらが助けたいのは子供だよ、チラの年寄りたちのためじゃない」

ガーナではセレモニーとなると長老や年寄りたちお偉方はもちろん参加者全員に料理と水orファンタとクッキーを、ホスト(外部者)が参加者(村人)に振舞うのがガーナ流「正しい」もてなしかた。オフィシャル・ワークショップとなると、最後に金一封を握らせる。ガーナ文化代表のようなクミさん、無類の世話好きだけど悪気もなく無心したりもする。方々走り回ったクミさんの企画したセレモニーのドタキャンは確信犯だった。

「このプロジェクトはドイツのみんなが支えてくれて成り立ってるんだ、信じて待ってくれているビアトリクスたちを裏切れない。そのためにはなんとしてでもバスと寄贈品を取り戻すよ。だからこれ以上大人たちにお金をばらまく気はないし、帰りの日程もみんなに告げずにひっそりガーナを離れるよ」

孤児院をたてて小学校をたてて、いつかチラにネットカフェを作ろう!夢いっぱいのアンスが蔑むGhanaian Mentality、同胞だからこそ切り抜ける処世術も心得ている。自分は純粋に子供たちを助けたいだけ、弊害となる悪しき慣習に従うつもりはない、自分は正しいことをしている。彼が正しいと考えるのは、ドイツで学び育ち生きる者がもつ近代の西欧価値観であって、彼の考え方や振舞い方はもうガーナ人のものではなかった。

BORGA BORGA 3NA 3Y3 DIEN 3Y3 DIEN? ―ボガだからってなんなのさ?― 

踊るはずだったサルコジの曲「BORGA(チュイ語で海外移住者・旅行者の意)」が頭の中をぐるぐる回る。

村落開発普及員としてコミュニテイに入っていくときに一番気をつけるのは、現地のやり方を尊重し、みんなのニーズをくみ取り、一緒に問題を考えて一緒に実現していくこと。アンスは同じガーナ人だからこそ、自分の信念とやり方を革新的に貫こうとするのかもしれない。

いったい何が、どのやり方が、ガーナ人のためになるのだろうか。
贈呈セレモニーはどうなるのか。果たしてスクールバスは取り戻せるのか。

真っ暗闇にオレンジ色の街頭が灯るチラ行きのステーションでタクシーを待つ間も頭の中はBORGAが大音量で鳴り響く。突然巻き起こった台風に放り込まれ、目の前に飛び散った破片を一生懸命つなぎあわせ、これは一体なにをかたどっているのだろうかと思案に暮れた。

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