アンスの夢の跡3


イースター祝日が明けた週、SHOKOLAは出張旅行に出かけた。トーゴ国境沿いボルタ州ホホエの観光ツーリスト・オフィスで働く同期隊員(日舞のKOMA!)の配属先に要請されて、写真を撮りにいってきた。数々の滝でマイナスイオンに癒され、美しい洞窟でアドベンチャーを堪能し、山登りと絶景に心を洗われ、猿の自然保護区や伝統的なケンテ織の村を取材した。
アクラでの騒動とスンヤニでの事件でどこにいても気が休まらなかったこの一カ月、神様に人生の休暇をもらった気がした。アメリカ人ボランティアのホームパーティにも参加して、一日留学も体験した!(アメリカ英語、全っ然わっかんない!)後半は同期のてっぺーも加わり、三人で日本食作ったり日本のお笑いムービーに爆笑したりして、同じ部屋で合宿のように雑魚寝した。
同じ頃、アンスはテマにいた。バスは貨物の移動で前後のバンパー部分を損傷し、修理に出したという。…あれ?出せたの?税関は?そしてバスの中の物資を取り戻し、子供達に渡すため一足先にスンヤニに運ぶという。

「チラで子供達に寄贈品を渡すセレモニーをやるよ。ビアトリクス達にスクールバッグだけでもちゃんと渡せたよって証明する写真やビデオが必要だからね。」

「そっか…私たぶん出れない、今ホホエだから。でもアクラ経由で帰るから、修理に出したっていうテマのバス見に行こうかな。」

説明を聞いてもなんだかよく分からないテマのだだっ広い工業地帯、タクシーの運ちゃんとあれやこれやと探して諦めかけたそのとき、運ちゃんが「あれじゃね?」といって指差した先のトラック修理現場の中に真白い大型バスを発見した。

あったーーー!!!写真でみた白いバスだー!本物だー!おっと、現場の兄ちゃんたちがたむろしてる…怪しまれないように、ちゃんと挨拶して許可もらわなくっちゃ…笑顔で近づいてチュイ語で落とし、荷物番をしてもらった。

わー、本当にガーナに来てたんだー、あ、中はほんとうに座席がない変わったバスだ~、結構砂埃が凄いな~…ラインラントから来たバスか…バックライトもフロントも粉々やんけ。

ひとしきり撮影して、はたと考えた。このバス船の外に出てきたってことは、やっぱ税関通過したってこと?どうやって?それとも修理だけ先にやるとか、そんなことできるの??
スンヤニに帰ったらナオミが教えてくれた。「アンスが全部払ったってさ」

えー!!!あの大金、ひとりで?それだけじゃない、バスに詰め込まれた色んな物資をスンヤニくんだりまで運ぶのにもお金がいろいろかかったそうだ。アンス、全部一人で解決しちゃったんだ…

「大変だったよー!チラのセレモニー!たぶんその場で急に決まったんだよね、ほら、いつも葬式やってるあの広場あるじゃん?どこからともなくイスがいっぱい出てきてチーフも出席して、子供達がいーっぱい来てさ。スクールバッグもプラスチック製のガーナじゃ見たこともないような立派なものだったよ、薬とかサングラスとかとにかくいろんな物がいっぱいあって。みんな最後は取り合いでさー、収集つかなくなって、結局全部贈呈できずに撤収しちゃって、凄かったよ~もう」

お疲れ様、ナオミ!同居人がいっぱいいて頼もしく思ったその瞬間。ナオミが続けた。

「…でもね。なんかいろいろ考えさせられちゃった。アンスは事前に登録した孤児の子だっていうんだけどさ、明らかにその場でみすぼらしい格好した子供をわざわざ選んで。前に並ばせてスクールバッグ贈呈して、ビデオに収めてさ。なーんか先進国からみたアフリカ支援のイメージを作ってたって感じだったな~。」

偶然居合わせてセレモニーに参加したお兄ちゃんがまたサラッと放った。

「援助って難しいね」

"アフリカのかわいそうな子供に寄付しましょう"聞こえのよさげな文句、憐れみを誘ういい画。でもさー、そのこ、みすぼらしい格好してるかもしんないけど、案外幸せに暮らしてるかもよ?服がなかろうが、ノートがなかろうが、裸足でネットのないゴールでサッカーしてようが、みんな笑って幸せに、そしていろんなものを分け合いながら、日本人よりよっぽど素直に明るく生きてるかもしれない。無駄に立派なスクールバッグなんぞなくとも、可愛くて頑丈な米袋`Uncle Sam`に教科書を入れて通学してるのだ。
みんなに別れを告げずに帰るつもりだったアンスにさよならを言いに行った。

「アンス、お世話になったクミさんをどうしてセレモニーによばなかったの?あなたの考え方や行動はもうガーナ人のものではない、ドイツ・ボガだよ。チラに住むガーナ人の習慣や価値観も、ちょっとは大切にしたほうがいいよ。それから、スクールバスは家電やワインと違ってGhana Cargoの宅配便じゃ届けられないんだから、次からはGTZを調べてみるとか、もっと慎重になって。あなたは自分の信念と理想があって、それをドイツのみんなが応援してくれて、今回のプロジェクトが実現した。あなたは素晴らしいことをしようとしてる、誰もができることじゃない。でももっと現実的になって、戦略的に物事を進めなきゃ。」

四十を越えているであろうおじさんに向かって、思わず説教をたれてしまった。でもビアトリクスが繋げてくれた奇跡を、友人として忠告せずにはいられなかった。

「ありがとうSHOKOLA、次からは気をつける。クミさんとは長い付き合いだ、お互いよく理解しあってるし、信頼してるから大丈夫だよ。今ね、ドイツとガーナでそれぞれソーシャルクラブをつくろうと思うんだ。子供達が主体となる自由な団体で、ドイツとガーナでインターネットを通じて交流するんだ。バスは修繕中でこれから改装をする間はスンヤニに保管することになるけど、チラに贈呈するためにまた今年のクリスマスにガーナに来るよ。」

夢見るおっさんドイツボガ・アンスはそう言って家族の待つお国へ帰って行った。
残してきた親兄弟や子供を忘れ故郷を顧みることもないボガとは、サルコジが歌うような先進国ライフに憧れ溺れるだけのBORGAとは、アンスは明らかに違う。彼には高い理想と強い信念があって、行動を起こして夢を実現した類まれなる存在だ。でも不完全だらけの人間の所業に絶対の正解なんてない。それはほんの紙一重の匙加減なのかもしれない。同じ場所で生まれ育ったガーナ人の支援ですら現地の本当のニーズとは必ずしも相容れないなんて、そんな夢も希望の欠片もない話が一体どこにあろうか。

ビアトリクスとドイツの子供達との友情は消えないし、アンスとの物語もまだ終わらない。アンスが遺したもの―それは偶然を紡いだ奇跡のような夢物語と、援助の現実に突きつけられた鈍い痛みをともなうつめ跡だった。

コメント

谷口真吾 さんの投稿…
進化したくましくなっていくショコラさん。

なんだか素敵でかっこいい。

ショコラ、心地よく美しい。

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