異文化交流2 ー酒盛り、その壱ー

僻地アフラス村で石鹸作りをしていたある日の出来事。
石鹸グループのムードメーカー、フロミナの一人息子レイモンドが学校に行かず、庭に小屋を建てていた。「レイモンド!おはー★何やってんの?ヤギ小屋でも作ってんの?」「オハヨー!(教えた日本語で挨拶!)これ、自分で住む家作ってんの」「え!あ、そう、ごごめん…自分で作っちゃうなんて凄いね〜(木と草と土で)頑張ってね!そういえば学校は?」「行かない。辞めたんだ。」母親のフロミナが言った「うちの夫は体壊してるでしょ、農業できないのよ。だからレイモンドが畑に行くしかないの」
土壁を作るために、泥を作っている
そう、十九歳中学一年生の彼は独り立ちをすべく家を建て、家業を継ぐために退学したのだった。一瞬言葉を失った。遠くてまだひとりでアフラスに行けなかったころ、麓のエシアイエム学校に通うレイモンドに手紙を託し、活動メンバーである両親と連絡をとり、物事をちょっとずつ進めていったものだった。あのレイモンドが学校からいなくなる…ショックだった。何がショックって、ただでさえ就学率が低く退学率が高いこの地域で、活動の中心メンバーの長男が学校を辞めてしまったのである。
仕方ないのだ。移民の彼らは小作農で、地元の大地主に毎年年貢を納め、土地を利用している。もう私が初めて会ったときから父親は体を壊していた。フロミナは畑も行って家で雑貨も売って、ミシンでなんでも縫うし、麓で買ったシアバターで洗濯石鹸(超豪華!)を作っちゃっうくらい創意工夫に溢れてて、働き者でがんばり屋さんのお母さん。
柔軟で独創的なフロミナ
飲料水の包装を利用したリサイクルの石鹸包装にもとっても意欲的で、
いつも自ら率先して活動に取り組む
生活費を稼がねばならない、じゃぁ学費があれば学校に戻れるかって、そういう問題でもない。お金があったところで、生きてくためには、食べ物を得るためにも、誰かが代わりに畑に行かねばならないのだ。そしてこの家には長男のレイモンド以外に畑仕事をできる人がいないのだ。
麓のエシアイエム学校。
幼稚園児はマンゴーの木の下で青空クラス。
このエリアはみんな北からの移民で、家は森に点在していて、
相対的に貧しい。私服が目立ち、給食制度がないので欠席が多い。
学校に通い始めたのは、学校教育をもっと普及させて、村のみんなに学校運営にもっと関心をもってもらいたかったから。その村の活動メンバーの長男が学校に行けないなんて。私は一体なんのために村落開発に来てるんだろう。抜けるような青空のもと森の奥の村で、無力感が全身を覆った。先進国から来た小娘一人、アフリカの村で何ができるというのだ。中心メンバーの息子がこれじゃ、グループの成功どころか、村の何を開発普及させるってんだ。
見事に半壊!した校舎の小学校高学年。
初めてレイモンドに会った時、彼はここの六年生だった。
なにやってんだろーなー、私。
私ひとりの働きが、一体なんになるというのだ。


石鹸作りのリーダー、チーフの奥さんアジャラを誘いに、家に向かって歩き出した。どうしようもなさに押しつぶされて、アジャラが住む丘にむかう道を歩きながら、涙が滲んだ。
いつも優しく思いやりに溢れるアジャラ
ちょうど日本のMAMYと同い年
なんでアジャラは私の言葉や気持ちをこんなにも分かってくれるんだろう
奇跡のような意思疎通が普通に繰り広げられる
スンヤニの僻地アフラス
誰にでも優しくて、慈悲深いアジャラの顔を見て思わず聞いた。「レイモンドが学校をやめるって」アジャラは北の出身でチュイ語が母語ではないのに、私のつたないチュイ語を全て理解してくれる。言語は心と心で通じ合うのだ。私の思いの全てを悟ったアジャラが優しく呟いた。「ヤー、仕方ないのよ」


いつものように石鹸を作り始めると、彼女達の旦那や子供、通りすがりの隣人、偶然村に居合わせたよその人、みんなが珍しそうに見に来る。そんな光景も当たり前になったその日は、ナオミの活動先アフェネ村のナナ(チーフ)がお客さんとして来ていた。石鹸作りメンバー間でもめ事が続いているアフェネでは活動が行われていない。でも興味津々のナナは身を乗り出して石鹸作りに参加し、自ら石鹸をカットしたり、とても楽しそうにしていた。「うちの村でも出来たらなぁ」温かそうな人柄のナナがしきりに言っていた。
この日は初めてモリンガソープに挑戦した日だった!
自ら身を乗り出し、出来上がった石鹸の表面をナイフで整えるナナ
事件はその時、起こった。アフェネ村からの客人をもてなすために村の男達が集まり北の地酒ピトーを振る舞っていた。村で一番片言英語が喋れるおじさんサンバは村の中心メンバーで、奥さんのフォスティは石鹸作りのメンバーだ。結構飲んだのか、気持ちよさそうに会話に入って来た。そして滔々といろんなことを喋り始めた。どこの世界でも酔っぱらいは同じ問答を繰り返す。ナナと活動について語っていたSHOKOLAは疲れもあってちょっと苛立ってしまった。
中央にたつのがアフェネ村のナナ
熱心に活動を眺める
その左となりの茶色いシャツがサンバ
英語が喋れる彼に最初とても助けられた
「うっさいなぁ、もう。酔っぱらいはー」
聞こえたか聞こえないかくらいの呟きに、サンバの顔が曇った。
「なんだって?今なんて言った?」


ヤバ、ちょっと怒らせたかな?でもこの村、みんな朝からよく飲むしタバコも吸うし、結構自由そうじゃん。いいじゃん、別に酔っぱらうくらい、SHOKOLAだって飲むし。
でも一度言った言葉は取り消せない。


「俺は酔っぱらってなんかない!」
怒りを露にしたサンバは、だんだんと声を荒げ、騒ぎ始めた。
「小娘が何いってんだ!俺を侮辱するのか!」
活動が軌道に乗るまで、今まで一番助けてきてもらったサンバがキレた。
声がだんだんと大きくなり、叫び始めた。


みんな気にするなと言ってくれる。でもその場は収集がつかなくなり、居場所を失ったSHOKOLAは小屋の裏にいって、やるせなさにまたもや涙が溢れて来た。この日は朝から泣いてばかりだ、まったくもう。
その様子がアジャラに見つかってしまった。苛性ソーダを使う石鹸は固まるまで早くても3、4時間かかる。その間作業場であるフロミナの家から、丘の上のアジャラの家まで避難した。


アジャラの家では旦那のアフラス村のチーフのナナが木の下で、のんびり時間を過ごしていた。優しい穏やかなアフラスのナナは私の泣き顔を見て驚いた。
「ヤー、どうしたんだ、一体なにがあったんだい」
アフラス村のナナは、チラの町で買って来た中国茶を
お砂糖たっぷりで飲むのが日課。
優しいアジャラが心配してSHOKOLAの手をずっと握っている。
「どうして泣いているんだい、気持ちを言ってごらん」


これまた拙いチュイ語で事態を説明すると、ナナは優しく笑った。
「仕方ないねぇ、そんなこともあるさ」

ナナとアジャラは北のアッパーイースト州から農業をしにやってきた。アフラス村の最初の入植者だった。ふたりの歴史や子供の話を聞いていた。日本の家族のことを聞かれた。ナナとの間に八人の子を授かったアジャラは、SHOKOLAのMAMYと同い年だった。アジャラの末っ子はやんちゃ盛りで、力一杯甘えてくる。(本当に腕力も凄い。ガーナ人の筋肉…)


丘の上の木の下でふかしたヤムイモとペペの効いたソースのお昼ご飯をもらい、庭のお水を飲んで(生水はあんま飲んじゃいけないんだよね…これ雨水かな?わき水かな?最近は出されるとよく飲んでしまう…)気持ちが落ち着いた頃、アフェネ村のチーフがやって来た。


チャーミングなアフェネのナナが、木の根っこに腰をかけ優しく話した。
「さっき不快な思いをさせてごめんね、サンバを許してやっておくれ」
その場に居合わせただけの隣村の長老さんが、わざわざ訪ねて来て頭を下げて、許しを乞いに来てくれたのだった。
「それにしても羨ましいなぁ、うちの村でも石鹸作りが出来たらなぁ」
いろんなことに熱心なアフェネ村のナナはしみじみとこぼした。
お昼を過ぎて石鹸が固まった頃、作業場であるフロミナの家まで降りていった。
そうしてまたみんなで石鹸をカットして、形を整え、スタンプを押して、作業を始めた。
おいしそうな抹茶色に仕上がったモリンガ石鹸
アフェネのナナに説得されたのだろうか、さっきまで切れていたサンバも落ち着きを取り戻し、石鹸作りの様子を見守っていた。なんて声かけたらいいんだろう、そんなお互いの沈黙が続く中、石鹸作りに集中した。カットする時はロスを少なく、そして仕上げは丁寧に作業を行うように指摘した。よそで売る時、商品の見た目はとても大事である。少しして突然サンバが呟いた。


「Makoma eyemeye (My heart is painful) 俺は傷ついてる」
そして同じ台詞を繰り返し、今度は村中に向かって叫び始めた。
「あんなことを言われて俺は傷ついた!村の長であるこの俺に向かってなんだあの言葉は!」
今度こそ、もう本当に収集がつかなくなった。


本気でもうどうしようもない、こーゆーときガーナ人は無視を決め込む。
奥さんのフォスティも気にしない。
「ヤー、あいつは怖がってるだけだよ、気にするな」


でも気にするし!はっきし言って、隣であんなに叫ばれたら怖いし!
正直なにかされるかもと思って超怖かったし!


みんなと石鹸を磨いて形を整えながら、罵倒されまくって、居場所がなくて、またもや涙が溢れて来た。そしたらレイモンドのお母さん、元気なフロミナに一喝された。


「ヤー!あんなヤツの言うことは気にするな!お前はなんのためにわざわざ日本からこのアフラスに来てくれたんだ!国にいる母や家族や友達のみんなに、お前がここで何をしてるか、私たちと石鹸を作ってることを、伝えるんじゃないのか!」


胸が詰まった。「うん、そう…その通りなの…」
それしか言えなかった。


ぶち切れたサンバは、アフェネ村のナナと木の下のベンチに座り、説得されているようだった。


フロミナの旦那さんで、体を壊してるオーガスティンが優しく、力強くうなずく。
「気にするな、日も暮れるし帰って大丈夫だよ」
フロミナの旦那、レイモンドの父親オーガスティン
村の消防ボランティアの会長
最初は頑張って片言英語で喋ってくれてたけど、
いつからかチュイ語しか喋らなくなってしまった。
てゆーか今は彼らの母語アッパーイースト州のダガレ語を教えてくる。
が、頑張ります…
でも私がダガレ語で挨拶すると、
むこうも「オハヨー」って言うようになった!
なんか自然に!
今では僻地アフラスで日本語挨拶が飛び交ってます!
次いつくるとも約束する間もなく、みんなに守られながら、逃げるようにバイクにまたがり、アフラスを後にした。その夕暮れのオフロードは頭が真っ白でよく覚えていない。朝からよく泣いた一日だった。


次くるとき、どうしよっかなぁ…


ぼーっとした感覚だけが頭に残っていた。七月の雨期の頃だった。

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