アフリカン・ジプシーの恋人1












KOJO ANTWI & HIS BAND達と迎えた2011年正月の余韻も醒めやらぬ1月5日。
なんの予告もなしに、それはやって来た。

みなさん、TWITTERってやってます?
日本でも相当流行っているらしい、インターネット上でつぶやきあうアレです。
SHOKOLAもやってましたが、先月2010年12月から本格的に活用し始めました。日本の友人とつぶやき合うために、そしてガーナの最新音楽情報を収集し、また自ら情報を発信するために。広報活動の一環として。

コーサが去年ケープコーストでのイベント失敗したのは、ひとつには明らかに宣伝戦略が間違っていたからだ。自分が仲間のイベントが目の前でポシャるのはもうまっぴらだ…潜在意識が日々の行動を支配する。SHOKOLAはいつの間にか広告塔として自分自身がメディア媒体となり、情報を発信し始めていた。

そんな意識があってかなくてか、日本語の流行通りに一言呟いていた。
首都アクラのドミトリーに到着した朝、何気なく開いたインターネットで

そしたらレゲエ風お兄さんからメッセージが入った。最近なぜかFollowされた歌手の人だった。そんな有名人にFollowされるのは初めてだったから珍しいこともあるもんだ、と記憶にあった。

026-xxx-xxxx  暇な時に電話ちょーだい。
今アクラのスタジオに向かってるよ、そこで会おうよ。」


は???一体何事???
こっちは夜行明けで夢現を漂う寝ぼけ眼である。

彼の名前はWanlov The Kubolor
友達のフランシス君と音楽話で盛り上がった時、共通の友人・男前コイクといえば私達の話題は当然サルコジ。でもフランシス君に「好きな歌手は?」と聞いたら意外な答えが返って来た。「Obrafour & Wanlov The Kubolorオブラフオは知ってる。SHOKOLAも大好きなおじさんHiplife歌手で、マイiTune再生回数No.1彼の曲だ。でもワ、ワンラブダ?え、なんだって?もっかい言って、なんて名前?聞いたことのない名前に何回も聞き返した。でも結局覚えられなかった。
copyright/wanlov the kubolor
「あ、いた」
次に彼の名前を見たのはTWITTERの画面だった。ハーフっぽい顔写真が映っていた。長髪ラスターにグラサンをかけた、明らかにぶっ飛んだ様相の兄さんである。それがなぜ、彼の番号を送りつけられ、スタジオに招待された?完全に意味が分からない、こっちは彼の曲すら知らない。一体、何が起きてるの?現実が理解できない。


ただ分かったのは、また何かの引力で大嵐に放り込まれたということだった。SHOKOLAの思考回路は機能停止、理性と意識が遠のいた。代わりに本能と好奇心だけがなんとか携帯電話のボタンを押した。

Hi dear, Im shokola… in airport residential area now
テキストメッセージを送ると、間髪入れずに電話が掛かって来た。
「モシモシ?コンニチワー」
は? はぁ??? はーーー?!!!!

電話の主はなんと日本語を喋った!
朝からドミトリーで大笑いした。インターネットで有名歌手にナンパされ、そのガーナ人が日本語で挨拶してきたのである。一体、誰がこんな現実を信じられる?絶対おかしいって!運命の歯車がケタケタと笑い声をたてて回り始めた。

が、電波が途切れ、結局メールで、英語で連絡を取り合った。

今度は彼が携帯電話の向こう側で大笑いする番だった。
Yo ma te! Meba sisia, y3b3dinkomo wai! 
(OK, I see! Im coming soon, we will talk, right?)
元々話し言葉のチュイ語は、ガーナ人でも書けなかったりする。
ガーナ英語みたいな言い方して面白いね、という彼の度肝を抜いてやった。

PANJIのところにいるよ。KING AYISOBAYAA PONOがスタジオに来てる。場所は…xoxo… 待ってるよ!1lov

ぎゃふっっっ!!!!!その住所は目と鼻の先だった。あ、頭がガンガンするななな、なんじゃこりゃ今日、昼からミーティングあるんですけど本気でどうしよう あ、ありえん行けってことか?

でもなぜサルコジと生え抜きのテマの実力ラッパー、YAA PONOがそこに居る?
PANJI……KING AYISOBA……な、何それ?だ、誰?
すみません、その固有名詞知りません

そのファンキー兄さんは二時間後に着くという。
慌ててシャワーを浴び服を着替え、久しぶりに化粧をした。
(夜行バス明け!防寒着!任地の田舎じゃ毎日ノーメイク!)
タクシー運ちゃんにマイ電話を渡し、ファンキー兄ちゃんに道案内をしてもらった。高級住宅地を二三分走り抜け、その一角に赤いコンテナーと赤い門が見えた。
「着いたぞ」ドライバーは言い捨てた。
そしてSHOKOLAも電話口に告げた。「着いたよ」
しばらくして、門が開いた。


背の高い、Tシャツを着たお兄さんがやって来た。
家の中からそのまま出てきたのかな、腰に布を巻いて素足で近づいて来た。
Hi
長髪ラスターの優しい笑顔が微笑んだ。
やっぱり、あの写真の人物だった。

「私のこと、どうやって知ったんですか?」
「んー?TWITTERで僕の写真にコメントくれたでしょ?
あとネットでライブの写真いくつか見たよ」
TWITTER…コメントしたっけ?覚えてない
てかライブ?FACEBOOKにアップしたKOJO ANTWIのコンサートのことか?
「バンドの友達の写真かな?」
「うん、サンデーは友達だよ」

ぎゃっふん!!!!!ボランティア繋がりで知り合ったサンデー達と、奇跡の再会を果たしたスンヤニ写真が、なんでアクラのレゲエ歌手に繋がってるの。殴られたように後頭部がジンと響き膝が笑う。

「最初はナナに挨拶しよう」
赤い門を通され、一軒家の一階に上がり言葉を失った。
そこは完璧なギャラリーだった。
SHOKOLA好みの、右脳炸裂な立体オブジェがずらりと壁にかけられ、まるでNYの前衛アーティストのアトリエだった。こんな空間、ガーナで初めて出会った…


その空間の真ん中に、ひとりのガーナ人が立っていた。
なんとも風格のある、温和そうな可愛らしいおじさんだった。
チュイ語で挨拶すると、そのおじさんは顔をくしゃくしゃにして、腹をよじって大笑いした。
そして外の螺旋階段を上って、二階へ上がった。
渋い焦げ茶色の板間は素足に心地よく、レンガ造りの壁にはナナの作品や他の人の絵画が並ぶが、ひと際目を引くのは入り口付近の壁一面に描かれ偉人達の像である… そのリビング・ホールにまるでギャラリのように配置されたソファが並び、ガーナ人の男女が何人も座っていた。独特の香りと空気と時間が流れるその空間は、ひとつの小宇宙だった。


ひとりひとりに挨拶して握手するのがガーナの習慣。手前のソファに腰掛ける白いシャツとジーパンの黒髪パッツンのウィッグ女子に手を差し伸べたとき、ファンキー兄ちゃんが何やら呟いた。


「彼女はMiss Marley。ボブ・マリーの娘だよ。パトワ語を喋るんだ」
ん?!ボブ・マリー?あのレゲエの??? あ、あそう… ご、ごめん、レゲエはLucky DubeしかCD持ってない… よく分かんないぞ… なんかの冗談かな?? ファンキー兄ちゃんの説明は右から左へ流れた。


他にも若い兄ちゃん達がうようよいた。首都アクラには元々ガという民族が住みガの言語を喋る、チュイ語が共通言語ではない。彼らは主にピジョン英語を喋っていた。


「スタジオに来て、KING AYISOBAがいるよ」
…う、うん?! 誰、それ… 音響設備が整うキッチンの隣の小部屋に大男が5、6人詰め込まれていた。独特の空気が一気に濃くなり、白い煙が漂い、甘苦い香りが鼻を突いた… もしかして、これ、ガンジャってやつ? 初めて見た…… 輪の中心には半裸の男が佇み、マイクの前で独特の奇声をあげていた。周りの男は彼を注視していた。


完っ全に、不思議の国のアリス状態である。
意味が分からない!アンタ達、一体誰!何者!
どうして私はここにいる!


奥の静かな板間に通され、ファンキー兄ちゃん・もといWanlov The Kubolorことワンラブ君と、Miss Marleyちゃんと三人になった。思い思いに椅子や床に座り、くつろいだ。自然体な、不思議な雰囲気だった。Miss Marleyちゃんは全く喋らず、時たま私のチュイ語に笑うだけで、とってもシャイそうな女の子だった。


薄暗い部屋の窓際に立つワンラブ君、逆行で顔が見えない。
人間は、本質的に自分にとって大事なことを話したがる。
「世界で初めて、ピジョン・イングリッシュのラップのミュージカル映画を作ったんだ」
DVDと映画ポスターを持って来て、ワンラブ君は唐突に語り始めた。


「僕はいつでも裸足で、スカートを巻いてる。
世界中この格好で旅行する、アフリカン・ジプシーなんだ」
あ、そういえば… そうでしたね、その格好… へ、部屋着ではないんだ…
彼はコーカソイドとガーナ人ハーフというよりは、ちょっとインド系も入ってそうな不思議な顔をしていた。納得、聞けばルーマニアのハーフという。だから自分のアイデンティティをジプシーに持っているのか。まだ彼の音楽を聞く前で、これまた、ふーーーん、と右から左に流れて行った。


というより、衝撃的な不思議の国へと強制連行されたアリスはキャパを超えていた。
全部がもう「ふーん、あっそう」である。
…あっそうって!何が!(ひとり突っ込み)


彼が留学していたテキサスの専門学校は日本に姉妹校を持っていた。
そこの日本人交換留学生と仲良くなり日本語を覚えたという。
挨拶も出来るし、よく覚えてるもんだなぁと感心した。

「日本語でワシヅカミって言葉あるでしょ?
ピジョン英語でもholdがっちり掴むことをzukuって言うんだよ」
「へー!言語って面白いね、全く違う言語でも似た音から同じものを連想するんだね」
Wanlov君の言語学下ネタ講義がヒートアップしていく。
sokoi sokoiは?何を想像する?」
Miss Marleyちゃんが笑い出した。「アソコでしょ」
SHOKOLAも突っ込む。
「そーなんだ!日本語でもthere thereって意味に聞こえるよ!」
みんなで大笑いした。午後の柔らかい陽だまりが木の床に落ち、温かく神秘的な空間は皆をくつろがせた。


ワンラブ君は相当自由人らしく、本能の赴くままに、ふわふわ世界を漂っている。


「噛んだり口に入れたいと思うことは、人間の本能なんだよ」

「ふーん」
「セックスの時にない?そういう経験。」
「…………あ、ある!噛まれた!日本で。」
ワンラブ君がバカウケした。なぜオカシイ?
「アランサって木の実、知ってる?」
「アラサ?何それ?」
ガーナの現地食なら大概食べ尽くしているのに、このフルーツは知らなかった。
「種が五個入ってるんだ、その赤い果実をしゃぶるのが好き。
まるでヴァジャイナみたいなんだよ」
籐の椅子から一瞬ずり落ちた。
「ふーん、スンヤニには売ってない。今度トライしてみたいな」
初対面で、一体なんだってこんな官能小説のワンシーンのような話題をしてるんだ?でも天然ワンラブ君が言うとイヤらしくないから不思議だった。

隣の籐の椅子で眠そうにしていたMiss Marleyちゃんは、
マットレスに座るワンラブ君の隣に寝転んだ。
「彼氏、いるの?」
そういうアナタは?」
聞かれたらまずは聞き返す、反射的に日本の癖が出た。ガーナ人は嫌がる。大抵の男は「俺が最初に聞いたんだ!お前が最初に応えろ!」と食って掛かる。年齢でも何でも。
「彼女はいっぱいいるよ。LALDNに子供もいる。」
彼はさらっと応えた。とても素直だ。
「君もいっぱいいるの?ガーナ人と付き合ったことある?」
「あなたみたいに、いっぱいはいないけどでもいつも喧嘩してばかりよ」
途端にワンラブ君は悲しそうな顔をして聞き返した。
「なんで喧嘩なんてするの?」
すかさずMiss Marleyちゃんが突っ込んだ。
「喧嘩っていっても本当に戦うfightじゃないのよ、口喧嘩quarrelよ。普通するわ」
ワンラブ君は分からない、といった怪訝そうな顔を一瞬だけして、そして微笑んだ。
「いいね。彼氏いる人、好きだよ」
…お前の隣で横になっているMiss Marleyちゃんは、どう見たって彼女だろう?彼女の前で口説かれて、本気にする女はまず居ない。またもや「あ、そう♥」といって流した。

PANJIを紹介するよ」
上半身裸の渋いダンティが現れ、ノックアウトされた。

ストライクど真ん中!完っ全に好みである。
ハーフのような薄い褐色の肌、清潔感のある短髪、
三つ編みされた口ひげがチョロンと跳ねていた。
キュートなオジサマはとても気さくな人だった、
ガンジャを普通の巻きたばこのようにスパスパ吸う姿を除いては。

この家は彼の生家で、彼の部屋にスタジオが併設され、
そのアトリエに色んなクリエーター達がたむろしているらしかった。
「弟が昔、日本に留学していたよ。今は中国で繊維業のビジネスをしているけどね」
あらまー、そうなんですか…二人して日本に所縁があるんですか…
今日、ここにSHOKOLAが呼ばれたのも、何かのご縁ですかね…

一階にはお兄さんのナナのギャラリーがあり、二階にはパンジーのスタジオがある一軒家。庭には植物園が広がり、パンジーの部屋から見下ろすと、初老のオブロニ女性が草木に水をあげていた。

「母は23歳でドイツからガーナに嫁いでね、以来ずっとガーナに住んでいる。不思議な人でね、70歳であまり食事を取るわけでもないのに、とても元気なんだよ。ガーデニングが好きなんだ。エネルギーは循環するものだからね、植物からエネルギーをもらっているんだよ。」
初対面でエネルギー循環を説くアナタも相当不思議ですよ…そんな、頭でこねる理屈や常識はかき消された。パンジーは完全に高次元の魂を持つ人で、頭がいいだけではない、仕事ができるだけでもない、人の世を悟った、高い精神性を兼ね備えたひとかどの人物であることが本能的に分かった。
「私の父もガーテニングがとても好きでした、五年前にガンで他界しましたけど」
ガーデニングといえば、SHOKOLAの人生において父なしには語れない。
PAPPY…お空の上から見ていますか?
素敵なお庭と、エネルギー循環論と、不思議なダンディと、テイストのいいオブジェに囲まれたアトリエ。初めて来た場所なのに、どこか懐かしい。でもとても斬新で、刺激に溢れ、皆自由で、自然体で、とても居心地がいい。


KOJO ANTWIのライブ話になった。

「スンヤニとベレクム、二つも公演行ったの?へー、バンドメンバーと知り合いだったんだ?彼らもう戻って来て+233で演奏してるよね、昨日の火曜から」
おっしゃる通り、KWAME YEBOAH率いるSUNDAY達は毎週火曜日アクラの+233というJAZZ BARで演奏している。
なんでもご存知、流石です…せ、狭い世界ですね…






「ちょっとトラブッて(ビデオカメラ盗まれた!)KOJO ANTWIご本人とお話したんです。日本やアジアには来たことないって、でも今年か来年あたりに行きたいって仰っていました。社交辞令かもしれないけど…」
だって、KOJO ANTWIも素晴らしかったけど、パンジーやワンラブにも来て欲しいな。
単純な思いから口を突いた言葉だったが、パンジーの興味を引いた。
「日本って、大きな音楽イベントある?」
「ありますよ、大きいのが幾つか。海外の有名アーティストもいっぱい来るんですよ。」
SHOKOLAは行ったことないけど、弟のRYO君がROCK大好きで毎年行っていた。クラシック音楽とUK ROCKが好きというちょっと変わった(?)音楽マニアのRYO君からは、いつも色んな音楽情報を聞かされていた。サマソニ、フジロック、あさぎりジャンボ…経済立国日本には世界に誇る大規模音楽イベントがいくつもある。


パンジーとワンラブ君は、仕事の話をしていた。来週、ベナンのコトヌーでイベントがあり、それに行く行かないの話をしていた。あー、きっと彼らはアーティストとマネージャー/プロデューサーの関係なんだな、DR.CRYME君とコーサの関係のように。海外イベントにも行っちゃうスケールなんだ…欧州スポンサーがどーの、ウガンダの歌手がこーの、といった海外音楽事情について話し合っていた。どこのレコード会社でも、とても現実的な切れ者がプロデューサーをして金銭、リスク管理、といったマネージメントを担い、ちょっと浮き世離れした芸術家が創造と創作に打ち込むんだなぁ…

話が盛り上がって来たところで、SHOKOLAはミーティングの時間になってしまった。
三時開始、ただ今二時五十分!ひぃ!今日の会議、遅刻は出来ないんです!
「会議どこ?いつ終わるの?」
「近くのドミトリーよ、一二時間くらいだと思う。」
「終わったら連絡ちょうだい」
皆への挨拶もそこそこに、煙のように立ち消え、アトリエを後にした。

通りでタクシーを捕まえようと、見送りに来たワンラブ君が呟いた。
「あ、YAA PONO

そう、テマ出身の実力ラッパーYAA PONOが通りの向かいのベンチに座っていた。
YAA PONO… 初めて彼を見たのは、スンヤニの学園祭で歌う姿だった。その後、テマの音楽イベントに何回か足を運んだがお目にかかったことはない。サルコジと並ぶ才能溢れるラッパー、というのが定評だった。こんなに間近で会うのは初めてだった。意外に長身で細身だった。

本日初めて、名前を知ってる人に出会った。
「この子チュイ語喋るよ」ワンラブ君がそそのかす。
「エイ!マジで?!」
期待以上にナイスリアクションをくれたYAA PONOSHOKOLAとの会話を、ワンラブ君がBlack Berryで撮影し始める。ラッパー達はカメラが回りだすと止まらない、喋るのも演技するのも本当にうまい。
あああああ、あのー… スミマセン、私、今から会議があるんです…… 
ノリノリのふたりを振り切ってタクシーに乗り込み、這々の体でドミトリーに滑り込んだ。

YAA PONOに会っちゃった!!!!!
今日、人生で一番変テコな日に、唯一湧いた実感だった。

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