「1セディちょーだい」
警備員がいる。朝と夜の二勤交代。色んな警備員が交代ばんこに来る。退役軍人が来たり、頼りなさそーな若い兄ちゃんが来たり、カゼで欠勤するのもいれば時間通り来なかったりする人もいる。もしかして一番身近なガーナ人かもしれない。 助っ人で来たマイケルは同い年の25歳。普段は近くの陸軍基地で働いている。陽気で社交的、掃除や洗濯を手伝ってくれるけど持ち場を離れてその辺ほっつき歩いてたりするお調子者。 住み始めたばかりなので近所の人がご挨拶に来てくれたり、大家の人が修理に来てくれたり客人が絶えない。地元じゃないのに知ったかで偉そうに説明する若造マイケルを見て「なんだコイツ」。勤務が終わる頃、スーパーバイザーが迎えに来る予定だったのだが来れなくなり足がなくなった。帰り際に一言。 「1セディちょーだい」 は?!タクシー代だって?大人が何言っちゃってんの!ちゃんと働いてんだから財布くらい持ってなさいよ!マイケルが金をねだるのは初めてじゃない。私に言ったが運のツキだ、思わず説教たれる。 そこへ先月ホームステイしてたときの知り合いが挨拶にやってきた。といっても、私はうろ覚えの男性。タイミング悪いなぁ、この人… 客人に向ってゴニョゴニョ言い出すマイケル。するとマイケルに1セディを差し出す客人。え!何やってんの?挨拶にきた客人は、知りもしない他人にタクシー代を乞われて1セディをあげたのだ。私は思わず「それってあなたたちの文化なの?」と素っ頓狂な質問。マイケルはその場からそそくさと立ち去った。 まさにカルチャーショック。 不躾で奔放な若造ガーナ人、1セディなんてはした金ケチった自分の決まり悪さ、他人への施しを厭わない寛容と共存のアフリカン精神…何が正しいのかなんて分からない。 モジモジした客人は恥ずかしそうに会話を打ち切って、意を決したように一言。「そういえば。指輪をしていないけど君は結婚しているのかい?」駄目だこの人、何から何まで一生タイミングの悪いんだろーな… 肩を落として帰る彼に、自分のバツの悪さが混ざってなんとも後味の悪い引っ越しから一週間目の夜でした。